今回、Oriolus(オリオラス)ジャパンから『ERJI.NET × Oriolus「EJ01」』をお借りする機会を頂戴致しました。

普段は製品単体のレビューを書くことがほとんどなのですが、「EJ01」はイヤホンと専用のアンプユニットがセットでひとつの製品として成立している珍しい構成の機材です。最近はハイエンド帯の製品に少数用いられている傾向もあったりしますね。
話は戻りますが、「EJ01」はイヤホンだけを手持ちのDAPに挿して鳴らすということができません。そのため今回は、音の話に入る前に、この製品がどういう仕組みで動いているのかという部分に焦点を当てて、しっかりお伝えしていきたいと思います。
製品について
少々長くなるセクションですが、省いては語れない製品だと思いましたので書き綴らせていただきます。
背景情報
製品名にも入っているERJI.NET(耳机大家坛)は、2002年に設立された中国最古にして世界最大級のオーディオコミュニティです。アメリカのHead-Fiに相当する存在といえば、なんとなく規模感が伝わりやすいかもしれませんね。会員数は90万人を超え、メーカーの関係者から業界のプロ、筋金入りのヘビーユーザーまでが集まり、最新情報から実際に購入した人のレビューまで、数千万件規模の書き込みが蓄積されている歴史あるサイトです。さらに、中国最大級のオーディオ展示会である広州HIFIヘッドホン&デジタルオーディオ展をはじめとしたリアルイベントの主催・運営も手がけており、中国のオーディオ産業においては極めて大きな存在感を持っています。
そのERJI.NETが創設25周年の記念モデルを企画するにあたり、抜擢されたのがOriolusでした。
冒頭で少し触れましたが、近年のフラッグシップIEMでは、ドライバー構成や音響構造、チューニング技術の高度化に加えて、イヤホン単体にとどまらず駆動系まで含めたシステム全体から音を設計するアプローチが現れ始めています。
アルティメットポータブルオーディオシステムとBrise Audioが打ち出すFUGAKU、UMのPP6 Pro&UM Raptorによるシステム、そしてOriolus自身のTraillii Ultra IEM Systemなどがそれにあたります。イヤホンやアンプ、DAPといった個別の機器をそれぞれ最適化するのではなく、音楽再生システム全体として最適化を考え直す流れ。
Oriolus様から伺った話によれば、以前からこの方向の研究開発を進めていたようで、Traillii Ultra IEM Systemよりさらに前の段階で5Wayアクティブクロスオーバーのプロトタイプも手がけていたそうです。より多くの人が手に取れる製品を作りたいという構想とも合致し、今回のコラボレーションが実現しています。数年をかけて12回のバージョンアップを重ねて完成した製品とのことです。
「EJ01」について
「EJ01」は、イヤホン本体に外部クロスオーバーと専用アンプを組み合わせたIEMシステムです。ドライバー、帯域分割、増幅をそれぞれ独立した要素として扱うのではなく、信号の入口からドライバーの駆動までをひとつの設計体系として捉えている点が、この製品の根幹にあたります。

イヤホン側は、1DD+5BA+4EST(カスタム10mmダイナミックドライバー1基、Sonion製バランスドアーマチュア5基、Sonion製静電型ドライバー4基)による、片側10ドライバーのトライブリッド構成です。本来であれば筐体内のパッシブネットワークで辻褄を合わせる必要がある部分を、「EJ01」では外部ユニット側のアクティブクロスオーバーと左右で10系統の独立アンプで伝送する仕組み。

シェルはドイツ製レジンを使用し、職人の手作業によって製作。内部には5本の音導管の出口が設けられ、各帯域がシェル内部で混ざり合うことを抑える設計。

イヤホン側の端子には6ピンの銀メッキ銅製コネクターを採用し、専用の12芯ケーブルと組み合わせて使用します。

アンプユニット側は、CNC一体成型のアルミニウム合金筐体にアルマイト処理を施した構造で、外部振動と電磁干渉を抑えます。DACチップはPCM1795をシングルで搭載。入力は3.5mmと4.4mmのアナログ入力、USB Type-C、そしてBluetooth 6.0の3系統に対応し、AK4137EQによるアップサンプリングも備えます。バッテリーは5000mAhのリチウムポリマーで、稼働時間はBluetoothおよびUSBモードで約15時間以上、ライン入力モードで約30時間以上。急速充電に対応し、約4時間で充電が完了。
アンプユニットの重量は約270gです。

お借りした製品には、Oriolus製品なだけあって、「Oriolus 純正シリコンイヤピース」が付属しておりました。

なお、「EJ01」は99台限定生産モデルとなり、の国内での予定販売価格は税抜45万円、お届けは10月から11月頃の見込みです。国内での取り扱い方法については後述します。
主なスペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品形態 | イヤホン+外部アクティブクロスオーバー/アンプのシステム |
| ドライバー構成(片側) | 1DD+5BA+4EST カスタム10mmダイナミック×1、Sonion製BA×5、Sonion製静電型×4(計10基) |
| クロスオーバー | 外部ユニット搭載のアナログアクティブ5Way |
| アンプ | 左右独立電源による10系統独立アンプ(片側5系統×左右) |
| ゲイン調整 | 5バンド独立(SL/L/M/H:±3dB、SH:±1.5dB) |
| DAC | PCM1795(シングル) |
| 入力 | 3.5mm/4.4mmアナログ、USB Type-C、Bluetooth 6.0 |
| 対応フォーマット | PCM 32bit/768kHz、DSD256 |
| 周波数特性 | 5Hz〜40kHz |
| S/N比 | 110dB(各ch平均) |
| バッテリー | 5000mAh リチウムポリマー |
| 稼働時間 | Bluetooth/USB:約15時間以上、ライン入力:約30時間以上(急速充電約4時間) |
| イヤホン側端子 | 6ピン銀メッキ銅製コネクター(専用12芯ケーブル) |
| シェル | ドイツ製レジン、ハンドメイド、5音導管出口 |
| アンプ筐体 | アルミニウム合金CNC一体成型+アルマイト処理 |
| アンプ部重量 | 約270g |
| 付属品 | バランス接続用AUXケーブル×1、USB Type-C to Type-Cケーブル×1、本体用レザーケース×1、アクセサリーセット(シリコンカバー、ケーブルクリップ、クリーニングブラシ)×1 |
| 価格 | 国内予定販売価格 税抜45万円 99台限定生産 |
「EJ01」ってどんなシステムなの?
つまり、以下のような製品だということ。(個人的主観)
- イヤホンとアンプがセットで、単体では鳴らせないシステム製品
- 帯域分割をイヤホン筐体の外へ出し、片側10基のドライバーを10系統(片側5系統)のアンプで個別に駆動する
- 5つの帯域をハードウェアによってゲイン調節を独立して増減できる
- Bluetooth・USB・アナログ入力の3種類に対応する。
- 稼働時間は最大30時間以上と、システム型としては扱いやすい部類
「EJ01」は、「良いイヤホンを買って、次に合うDAPを探す」という従来の一般的な流れそのものを、設計側が引き受けてオールインワンにしてしまった製品ではないでしょうか。
駆動側とイヤホンが最初から一対で設計されているため、送り出し側の選定に悩む余地がありません。その代わり、イヤホンだけを持ち出して手持ちの機器で鳴らすという使い方は成立しません。音そのものの完成度に加えて、この運用形態を受け入れられるかどうかが、手に入れるかが左右される製品だと思います。
機能性や取り回しなど
「EJ01」において機能面は付加価値ではなく、製品の中心そのもの。ここは項目を分けて見ていきます。
アクティブクロスオーバーとは何をしているのか
一般的なマルチドライバーIEMは、パッシブクロスオーバーを採用しています。アンプで増幅済みの信号を、コイルやコンデンサ、抵抗といったパーツで構成したネットワーク回路に通し、各ドライバーへ送る帯域を切り分ける方式です。信号を減衰させながら分けるため損失が生じますし、ドライバーごとにインピーダンスや能率が違う以上、音圧を揃えるための調整もこのネットワークが担うことになります。そしてこれらのネットワーク回路をすべて、あの小さなシェルの中に収めなければなりません。
「EJ01」が採用するアクティブクロスオーバーは、順序が逆になります。まず増幅前の低レベル信号の段階で、オペアンプとハイパスフィルター、ローパスフィルター、バンドパスフィルターの回路によって5つの帯域へ正確に分割します。そのうえで、分割済みの各帯域信号をそれぞれ専用のパワーアンプへ個別に送り込む構成です。

つまるところ…増幅段では、ひとつの帯域に対してひとつの専用アンプという駆動が成立します。片側あたり5系統、左右で10系統のアンプが、それぞれ担当する帯域のドライバーだけを受け持つ形です。各チャンネルのアンプとドライバーは担当帯域のみを扱うため、フルレンジ駆動で起こりがちな電力配分の偏りや帯域間の干渉が発生しにくいということです。ダイナミクスの大きい音楽を再生した際の安定性が向上し、相互変調歪みも低減されるとされています。音圧調整や位相補正をパッシブ素子に頼る必要がないぶん、ハードウェアの段階で信号損失とノイズの混入を減らせるという理屈。
なお10系統という数字は片側5帯域の左右分で、片耳あたり5系統のアンプが10基のドライバーを帯域ごとに分担して駆動する構成です。
分かりづらいので表にすると、つまり以下のように片側5系統にそれぞれ独立したアンプが容易され、左右合計で10基のアンプが搭載されているということになります。
| 帯域 | ドライバー | インピーダンス |
|---|---|---|
| 超低域 | DD×1 | 30Ω |
| 低域 | BA×2 | 13Ω |
| 中域 | BA×1 | 36Ω |
| 高域 | BA×2 | 3Ω |
| 超高域 | EST×4 | 4Ω |
アンプ5系統で、ドライバー10基です。
Traillii Ultra IEM Systemとの違い
同じOriolusのシステム型製品であるTraillii Ultra IEM Systemも、帯域ごとに独立したアンプでドライバーを駆動するという考え方は共通しています。違いは、帯域分割をどの領域で行うかです。
Traillii Ultraは32bitのDSPによってデジタル領域で帯域分割を行い、その後にDAC、各帯域担当のアンプ、各帯域担当のドライバーへと信号が流れます。
対して「EJ01」は、DACでアナログに変換した後の信号を、アナログフィルター回路によって分割して各アンプへ送ります。純アナログの分割です。
どちらが上位という話ではなく、精度を取るか、アナログ領域で完結させることによる質感を取るかという設計思想の分岐点だと捉えるのが良いと思われます。
文章にすると分かりにくいのですが…要するに「分ける場所が違う&デジタルで分けるかアナログ回路で分けるか」ということです。
5バンド独立ゲイン調整
アンプユニットには、SL(超低域)、L(低域)、M(中域)、H(高域)、SH(超高域)の5系統に対してそれぞれ独立したゲイン調整が用意されています。基準となる0ゲインに対して、超高域が±1.5dB、その他の4帯域が±3dBの範囲で任意に調整できます。

このゲインコントロールはソフトウェア制御ではなく、別々に分割され、別々のアンプで増幅されている系統に対して、ハードウェアのレベルでゲインを可変させる仕組みです。本製品においてはデジタル処理を経由しないのがポイント。
可変幅そのもののはSH(超高域)の±1.5dbを除いて、±3dbと数値上は少ないように見えますが、自然に良く効きます。音の性格を根本から作り変えるような性質ではないものの、好みに刺さるポイントまで追い込みやすい…具体的に言うならば低域を一段持ち上げて量感を足す、高域を一段下げて刺さりを抑えるといった、詰めの調整に使う機能として最適な調節幅に仕上がっていると思います。
5つの帯域それぞれに3段階が用意されているため、組み合わせの総数としては相応の幅があります。
3系統の入力に対応
入力は3.5mmと4.4mmのアナログ入力、USB Type-C、Bluetooth 6.0に対応します。Bluetoothはハイレゾ相当のコーデックに対応し、AK4137EQによるアップサンプリングも可能だそうで。対応フォーマットはPCM 32bit/768kHzおよびDSD256です。
つまりこのユニットは、EJ01専用の駆動装置であると同時に、ポータブルDACアンプのような性格も併せ持ちます。
- DAPのライン出力(3.5/4.4mm)を受けて純粋なアンプとして使う
- PCやスマートフォンとUSBで繋いでDACアンプとして使う
- スマートフォンやその他の機器からワイヤレスで飛ばして使う
以上の3通りの運用が一台で成立する構成です。スゴすぎる。
有難いことに、この3通りの入力の切り替えがとても簡単。ボタンを押すだけ。

USBとBluetoothの入力については、オーディオのファンからの要望を受けて実装されたものとのことでした。中国ではコア層であってもBluetoothの利便性と使い分けに抵抗がないようです。読者様はいかがでしょう?
モードボタンの近くには3系統のうち、現在どのモードで駆動中かを表すLEDランプが点灯するようになっています。

バッテリー残量も、バッテリーのイラストが基板上に描かれ、LEDランプの点灯数で視覚的に現してくれるのもポイント。
稼働時間はBluetoothとUSBモードで約15時間以上、ライン入力モードで約30時間以上。急速充電に対応し、約4時間で充電が完了するそうです。10系統のアンプを駆動する構成であることを考えると、この稼働時間は驚異的なのでは?
取り回し・操作面について
アンプユニットの重量は約270gです。システム型の製品としては軽い部類なのではないでしょうか。


先ほどご紹介したように3系統の入力があり、一般的なポータブルオーディオにおける入力方法の思いつく範囲を網羅しているレベル。実用上の扱いやすさも使ってみると思ったよりも軽量な部類で、重量級ではないと思います。
接続方式について
アンプ側への接続については私が確認した資料によれば「6ピン銀メッキ銅製コネクター」という表記に留まりますが、恐らくHR10A系の6Pin仕様だと思われますが、これは確証はありません。

イヤホン側は6ピンの銀メッキ銅製コネクターと専用12芯ケーブルによる接続で、接触不良や信号減衰を防ぎ、10基のドライバーが全帯域で安定して再生できるような設計。その分太さはありますが、システム型をポータブルしていることを前提とすれば気にするレベルではありません。

ただし、汎用の2pinや MMCXではないため、リケーブルによる音の変化を楽しむという楽しみ方は想定されていません。(そもそもゲインコントロール機能があるので…)
接続が完了さえしてしまえば、後はボリューム調節するだけのシンプルなシステムです。
音量ノブは軽めで回しやすい部類。なお、電源ボタンも兼ねる仕組みになっているため、電源を入れたら大音量で再生されるような事故も仕組み上起きないように配慮されています。

装着イメージ
大きめの筐体ですが、丸みを帯びた形状にになっている為、それほど苦労しません。また耳に入る部分が小さく絞られている為、見た目よりも装着感は悪くはありません。

音質レビュー
結論から言うと
- まろやかで柔らかい、わずかに暖色寄りの音色
- 音に包み込まれるような、リラックス&没入型の鳴り方
- ボーカルは自然なセンター定位で、甘く艶やか
- 片側10基のドライバーを意識させない、質感の統一感
- 音場は広く綺麗な円形
- 定位の精度が高い
- 奥行きとダイナミクスの落差は控えめ
音を分析的に聴き分けるのではなく音楽に浸る…まるでお風呂に浸かるかのように。そんな製品だと感じました。情報量そのものは非常に豊富なのですが、それを密度や一体感のある音としてまとめ、包み込むように優しく耳に届けてきます。そのため解像感や分離感を前面に出し、音粒を間隔を開けて並べるようにして聴かせるタイプではありません。
また、静と動の落差をストレートに浴びたい方や、シングルドライバー機のような鮮烈でアタックの強い音色を求める方には、物足りなく映るかもしれません。
逆に、長時間音楽にじっくり浸りたい方や、マルチドライバー特有の帯域の継ぎ目が気になっていた方には、かなり相性が良いはずです。
全体的な傾向
まろやかで柔らかく、中庸なバランスを基調に、わずかな暖色の色づけが乗る音色でした。冷たく分析的な方向ではなく、聴いていて体温を感じるほうの鳴り方です。音に優しく包まれるようなイメージ、と言ったほうが伝わるでしょうか。丁寧で柔らかな描写の中に、そっとボーカルをセンターへ置いて、艶っぽく甘美に聴かせてくれます。リラックス&没入型のサウンドと言って良いと思います。それでいて、解像度は極めて精密かつ、透き通るような見通しの良さがあります。誇張した見せ方をしないまま情報を出してくるあたりに、完成度の高さを感じますね。
というのが全体的な感想ですが、より詳しく語っていきましょうか。
マルチドライバーを意識させない
まず耳を引いたのは、片側10基のドライバー(帯域ごとに5way出力)であることをまったく意識させない滑らかさでしょうか。もちろん1基のドライバーの製品には敵いませんが、音の質感を限りなくどの帯域も柔らかさと暖色系を彷彿とさせる落ち着いた音色に落とし込んだのは、驚きを隠せない部分です。
唯一マルチドライバーらしさを感じたのは、恐らく超高域を担っているESTドライバーくらいのものです。でも、ゲインコントロールのSH(スーパーハイ)を一段階下げるだけで突出具合が落ち着きます。
通称「多ドラ」と呼ばれるマルチドライバー機では、帯域の継ぎ目で質感が切り替わる感覚が残ることがありますが、「EJ01」ではそれがかなり希薄に仕上がっています。帯域分割と増幅を筐体の外に出し、ドライバーごとに与える帯域ごとの音そのものを独立して設計できるわけですから、こういう形で結果として現れているのかもしれませんね。
空間表現について
音場は広く、綺麗な円形をわずかに前方にシフトした、極めて自然なリスニングポジションに整う空間です。左右に振った音がしっかり真横に精度高く描写される定位の良さがあるため、サラウンド系の音源を聴くと前後左右の位置関係が明確に分かります。この精度の良さもあってか、ボーカルが極めて自然なセンターに定位してくれるのも、リスニングする上での違和感の無さに直結しています。
しかし、奥行き感は音場の広さにやや追いついていないような気がします。とはいえ十分すぎる表現力だと思いますし、奥行きはダイナミクスや余韻、余白が必要な難しい部分なので、ある意味包まれるような優しいサウンドではなかなか表現が難しいのではないかと思います。ということもありますので正直に言ってもネガティブな印象はまったくありません。
ダイナミクス・コントラスト
ダイナミクスそのものは、制御されたような鳴り方になります。静と動の落差をダイレクトにガツンと響かせて聴く用途には、少々向かないように思います。スカッとストレートに耳を貫くようなアタックは控えめです。相対的にコントラストがやや抑えられた表現になるため、「分かりやすい背景の暗さ」という観点ではやや控えめ、と評価したほうが正直なところなのかなと思います。奥行きや音の大小、静と動を使ってダイナミクスのある荘厳な音を鳴らすのではなく、音に優しく包まれるような体験を与えてくれる印象です
ここまで説明すれば察しも付きますが、解像感や分離感、音粒同士の余白を作って聴かせるようなタイプではありません。情報量は非常に豊富で密度も高いのですが、ある程度音粒は並べ、調和させつつも密度のある音の塊で表現し、包み込むような出方の音でしたね。
帯域ごとの話
帯域ごとのお話もしていきましょう。
低域の質感を見てみると、全体的に柔らかさと深さ、温度感も含んだまろやかさのようなものを感じる低域です。芯もありますが、芯自体は柔らかくやや太めで、下方向への沈み込みが深く、打撃の芯は深くはっきりと伝わってきます。やや弾力感がありますが、制動が効いているためか緩みは感じません。滑らかで空気感があり、重低音から中低音までの全体的な「低音」と呼ばれる帯域が、包み込むように鳴るようなイメージです。
中音域は、程よい密度感と精度の高さ、そして温かみがあります。ボーカルの距離は嫌味なくやや近めで、程よい距離感です。前述したとおりセンター定位も良く、結像がまとまっていて充実感があります。声の輪郭が曖昧にならずに立ち上がり、息遣いや歌唱の細かい制御の描き分けが得意といった印象でしょうか。情報量の多さがそのまま表現の厚みに繋がっている部分で、Oriolusブランドらしい甘さと潤い、そして温かみと艶っぽさを感じさせつつ、ニュアンスに忠実な質感です。同社の製品のOriolus Traillii JPやOriolus Traillii Ultra IEM Systemでも似たような傾向があったような気がしますが、甘美な描写という意味では本作が一番ボーカルに特化しているような気がしています。私の好みではありますが。
歯擦音は完全に丸める方向ではなく、ある程度残しつつ優しくまとめるチューニングで、聴き心地が良いですね。ただ敏感な人は1段階、ゲインコントロールのM(ミッド)スイッチを下げ、ボーカルを下げてみても良いでしょう。ボーカルよりも音楽のリズムやグルーヴ感により没入したい方も同様に、恐らくこの1段階下げたセッティングのほうが気持ち良いのではないでしょうか。やや前傾していたボーカルが一歩下がり、より伴奏の音粒を観察しやすくなることでしょう。
高域はゲインコントロールが±0のフラットな状態で聞くとややエネルギー感が強めで、前述した通りやや量感も突出しているような気がする為、一段階SH(スーパーハイ)を下げた方が地続きのような滑らかさになると思います。
とはいえ、同様によく制御されていて寒色や硬質さに振られていることはなく、「量感・エネルギー感がやや強いだけ」という程度に着地していると思います。シンバルやハイハットの金属音の響きも精度高くやや抑えの聴いたメリハリで自然に響きます。
また、この帯域の感じ方は試聴される方の年齢によっても感じ方が変わるのかなと思います。
入力方式に違いによる情報量の差など
まず、USB入力とBluetooth接続(Aptx HDやLDAC等)の音質はほぼ同等だと思いました。わずかな質感の差はあるものの、情報量の差はほとんど感じませんでした。どちらの入力でも「EJ01」は化け物級に情報量が豊かで、手軽な接続でも十分にそのポテンシャルを味わえます。というか「EJ01」のBluetooth接続(Aptx HDやLDAC等)がここまでやってくれるとは思ってもいませんでしたが、アップサンプリング機能も効いているからなのではと推測する所です。
ただし、Bluetooth接続をAACコーデックで聴くと明らかに音質が劣化を感じるので、できればAptx HDやLDAC等の環境で聴いていただくのが良いかなと思います。
一方…DAPなど出力機器自体のコストを無視すれば、最大火力の期待値という意味ではライン入力が最もポテンシャルが高いですね。出力までの工程が最も少ないので、これは当然と言えるのですが…(笑)。
入力された音に順応して増幅される感覚があり、ダイレクトでメリハリのある描写に感じられましたし、より繊細なディテールを感じられます。
Lotoo PAW 6000や楽彼 E7 CS13122、その他の安価なDACなども試してみましたが、ライン入力は入力した音に一番順応し、送り出し側による音質の上下やディテールの違いがはっきり表れます。ポテンシャルは青天井な感じで、頭打ちを感じません。
とはいえ、USB入力が少々分が悪くなるのは、高価なDAPである楽彼 E7を用いたライン入力と並べたときくらいで、その情報量の豊かさや音楽性の高さには一歩譲ります。ただ、それは比較対象の問題です。そもそも楽彼 E7 CS13122の方が高価ですし、こうした比較をしてしまうと、税抜45万円でオールインワンのシステムとして完結しているという「EJ01」のアイデンティティが失われてしまいますから。 あくまでこの検証はコストを無視したポテンシャルの検証という意味で解釈頂けたら良いかなと思います。
番外編
楽彼 E7 CS43122 → 楽彼 – EA4(プリモード) → ERJI .NET × Oriolus「EJ01」という最大火力とコスト度外視構成の例です。
「EJ01」の優しい味付けと楽彼 – EA4の特有の音色が組み合わさった、ツヤツヤの真空管サウンドに…?

こんな人におすすめかも。
- 本記事のレビューを見て、音の傾向や運用含め好きそう!と感じた人
- イヤホンと駆動機器の組み合わせ探しから解放されたい人
- デジタル処理を経由せずに帯域バランスを微調整したい人
- 一台でBluetoothレシーバーからDACアンプまで兼ねる機器を探している人
- ドライバーごとの駆動条件まで設計された構成に興味がある人
イヤホン単体で完結する身軽さを求める人には、まったく向かない製品かもしれません。
逆に、駆動条件まで含めて設計された一組を使いたい、あるいは自分の耳や好みの音に合わせて帯域バランスを詰めたいという志向であれば、この構成は他に代えがたい選択肢になります。
持ち運びの軽快さを差し出してでも、音の制御性を取る。その価値観に頷けるかどうかが判断の軸になると思います。
気になったこと
一応、気になった点にも触れておきます。
まず、イヤホン単体では音が出ません。当たり前のことのようですが、実際に運用してみると影響は小さくありません。手持ちのDAPで気軽に聴くということができず、常にアンプユニットとセットで持ち出す必要があります。アンプ部は約270gと、この規模のシステムとしては軽い部類ですが、それでも身軽さを求める使い方には向きません。
ケーブルも専用品で、汎用の2pinやMMCXではありません。リケーブルで音の変化を楽しむという遊び方は、この製品では想定されていないと考えたほうが良さそうです。
ゲインコントロールについても、万能ではありません。可変幅は各帯域±3dB、超高域は±1.5dBと控えめで、音の性格そのものを作り変えるほどの効果はありません。あくまで着地点を微調整するための機能で、私が感じるように柔らかく包みこまれるようなサウンドや本記事で紹介している傾向が好みに合わなければ、調整で解決するのは難しいでしょう。
音の面では、前述のとおりダイナミクスの表現が制御された方向にあります。静と動の落差で聴かせる音源や、背景の暗さを求める聴き方、究極に透き通るかのような鋭利さやエッジの効いた音を求めるような方とは相性が良くありません。この点は好みの問題でもありますが、購入を検討される方は把握しておいたほうが良い部分だと思います。
総評
「EJ01」は、ハイエンドIEMが長らく研究しつづけた「ポータブルオーディオの枠組みで、より小さな空間に、より多くの技術を詰め込む」という方向に対して、別の答えを出した製品です。筐体に収めきれないなら外に出せばいいという発想自体は単純ですが、それを片側10ドライバー・10系統独立駆動という規模で製品化、さらにはユーザーからのフィードバックを得て、BluetoothやUSB入力まで持たせて日常の使い勝手に落とし込んだ例は…あるのでしょうか?
数年で12回のバージョンアップを重ねたそうで、この構成を製品として成立させることの難しさを物語っているようにも思います。
ERJI.NETの25周年記念という文脈も、20年以上にわたって使い手が集まり、書き込みを積み重ねてきた場から生まれた製品が、完成した音を受け取るだけのものではなく、使い手が手を入れられる余地を残す設計になったのは、成り立ちとしてこれ以上なく筋が通っているなと…(笑)
税抜45万円という価格は、決して安い金額ではありません。ただしこれはイヤホンの価格ではなく、システム一式の価格です。別途DAPやアンプを用意する必要がないし、イヤホン選びに没頭してトータル出資が膨れ上がることを考えれば見え方は変わってくるのではないでしょうか。
逆に手持ちの機材を活かせないと考えれば割高、という解釈も出来る製品ですが、どちらの見方が正しいかは、その人の手元にある機材や、ユーザーの考え・基準次第でしょう。
この構成が今後のフラッグシップIEMの主流になるかどうかは、まだ分かりません。それでも「EJ01」は、イヤホンというカテゴリの前提を一度疑ってみせた製品として、記憶に残る一台になりそうですね。
購入を検討されている方へ
99台限定生産の「EJ01」は、投稿時点で日本国内での取り扱いが決まっていません。
ただ、購入を希望する声があれば”個別に“対応を検討したいとオリオラスジャパン様より伺っています。
予定販売価格は税抜45万円、お届けは10月から11月頃の見込みとのことです。
気になった方は、オリオラスジャパンの公式ホームページ、もしくは公式XのDMより直接お問い合わせいただければと思います。
筆者に質問コーナー
mondにて匿名の質問を受け付けております、興味があれば是非質問してみてください!

