今回ご紹介するのは、「Pula Audio ARC」です。

ちょっと前に50ドル級イヤホンのイヤホンが各社で示し合わしたかのように新作が登場していた時期がありますが、その波が20ドル級イヤホンにも押し寄せてきたようです。
ということで、今回ご紹介するPula Audio ARCも20ドルのイヤホンということで、とてもお手頃な価格帯です。激化する競争の中で、本作はどんな音を出してくれるのでしょうか。
製品について
「Pula Audio ARC」は、10mm径のPET振動板ダイナミックドライバーを1基搭載したシングルDD構成のインイヤーモニターです。CNC加工によるブラッシュドメタルのフェイスプレートと、聴き疲れを避けたニュートラル寄りのチューニングを組み合わせた製品だとされています。
ドライバー部にはN52マグネットによるデュアル磁気回路が採用され、振動板は6μm厚の一体成型PET、ボイスコイルには銅被覆アルミニウム線が採用。
フェイスプレートは時計の文字盤をイメージしたというCNC精密切削のアルミニウム製で、斜め方向のブラッシュ加工を2つのゾーンに分けて施したデザイン。指紋防止のパッシベーション処理が施されており、傷や皮脂汚れが目立ちにくいとのことです。
仕様
| 構成 | 1DD 10mm径PET振動板ダイナミックドライバー |
|---|---|
| 再生周波数帯域 | 20-20kHz |
| コネクター | 0.78mm 2Pin |
| 発売日 | 2026年7月 |
| 価格 | 約21.99ドル |
パッケージ
約20ドルという価格設定に対してとてもデザインが素晴らしく高級感のあるデザインの黒ベースのパッケージです。高級時計をイメージしたという触れ込みもあってか、パッケージからも既に練られたパッケージデザインだと感じます。

外筒を外してパッケージを開封すると、イヤホン本体がスポンジに固定されている状態で登場しました。このあたりは同価格帯のイヤホンでもよく見かけるパッケージですね。スポンジ下の厚紙で作られた箱の中には付属品が詰まっています。

付属品
付属品自体は、値段なりで標準的な最低限のパッケージ。

- イヤホン本体 ×1ペア
- イヤーピース 合計3ペア
- ケーブル×1
- その他、説明書など
イヤホン本体
20ドル級のイヤホンとしては上質で繊細なフェイスプレートデザイン。高級時計をイメージしただけあって繊細なCNC加工されたプレートが目を惹きます。Pulaというブランドのフォント自体もオシャレなので、時計の文字盤に刻まれた文字にも見えてきたり。

背面とサイドビューを見てみると、透明度の高い樹脂でハウジングが作られていることが分かります。樹脂ハウジングではありますが、しっかりした厚みがあり、ハウジングが空洞であることをあまり意識させないような有機的なフォルムでもあり作りの良さを感じます。

ケーブル
付属ケーブルは写真の通りで20ドル級イヤホンでは、「そんなもんかな」というレベルのケーブルが付属します。
もう少し上質さがあっても良いかもしれませんが、それはちょっとしたワガママかもしれませんね。

イヤーピース
付属するイヤーピースは、写真では伝わりづらいのですが厚みとコシがある上質なものが付属します。表面もサラッとしていてベタつきづらく、装着感も良い形状をしています。手触りも良く、この価格帯に付属するイヤーピースとしては珍しい良い質感をしています。

装着イメージ
全体的に小ぶりで、体格の小さめの女性でも装着感に問題がなさそうな大きさ。
有機的な凸凹のある形状も相まって装着感はかなり良い印象です。

音質について
「Pula Audio ARC」の特徴をいくつか書き出すと…
- 低重心で低音まったり豊か
- アタックが優しい
- 耳あたりの柔らかい音作り
- 体温を感じるようなボーカル表現
- ナチュラルな空間の描き方
- 価格の割に精度の高い定位
- リラックス志向
とにかく優しい。ふわっと包まれて、気づいたら肩の力が抜けてて、解像度がどうとか性能がどうとか忘れて、エントリー機を聴いているつもりが、エントリー機という枠を飛び越えていつの間にかリラックスして没入している不思議な体験ができるイヤホンです!
周波数特性
実測データは以下の通りです。
(IEC711/IEC 60318-4 clone / 1/12oct (1kHz) @ 94dB )
※8KHz付近は計測器の特性上共振しやすい帯域実際よりもピークが強めに出やすいことを理解の上でご覧ください。
平均値

左右差

評価チャート
音の傾向や特徴は、以下の評価チャートをご覧ください。
※製品の価格を考慮した評価となります。
試聴環境
- Lotoo PAW 6000 (レビュー用リファレンスとして)
- Lotoo PAW GOLD TOUCH
- 付属イヤーピース(半透明)
ショートインプレッション
「Pula Audio ARC」を聴いて、私はどこか懐かしさを感じました。自然で味付けの少ない、ありのままっぽい音ってなんだっけ、と考えていたところに「ああ、そうだ。こういう音だ。こんなまったり聴ける音だったかも」とスッと腑に落ちる感覚がありました。リスニング志向の傾向の音ではあると思うのですが、なぜか“意図的に味付けして作った”という感覚が少ないですね…
重心は低めで、低音に温かさと豊かさのあるイヤホンです。音のアタックも優しく、耳にそっと寄り添ってくるような柔らかさがあって、聴いていて肩の力が抜ける感じがあります。
低音は全体的に太く、ボーカルには温もりと柔らかさがあって、音の粒立ちも穏やか。高音はやわらかく、自然な抜け感を持っています。ソファーに沈み込んで、ありのままの温かさに包まれながらリラックスして音楽を聴きたい、そんなときに手に取りたくなるイヤホンだと思います。
ボーカルには人間の体温のようなものを感じました。昨今のイヤホンにありがちな意図的な味付けで作り込んだ音というよりは、あえてフィルターを一枚かけて自然に温かい方向へ寄せた、という感じですね。
数百を超えるイヤホンを聴いてきて、なんだか原点回帰したかのような懐かしさのある自然な音で、個人的にはエモさを感じた部分もあって、私はこれ…めちゃくちゃ好き…(笑)
本作はただのエントリー機だと思わない方が良いかもしれませんね。解像度や性能では語れない魅力に引き込まれると思います。

エントリー機という枠ではなくて、“リラックス志向のイヤホン”という枠組みとして見たくなる完成度。
低音域
深海のように沈み込む、というほどではありませんが、深さと厚みのある低音です。穏やかさと弾力があって、包容力を感じる鳴り方でした。聴いていて耳が癒される、そんな低音です。
低音の中で何が主軸になっているか、みたいに語る要素もあまりありません。とにかく包容力があって、優しく豊か。そんな低音でした。
アタックが優しいので、ノリノリのビートでリズムを刻むにはちょっと向きません。踊るための低音ではなく、ソファーに沈み込んで目を閉じて、音楽に没入したくなるようなタイプです。
それでいて、空気を動かしている感じもちゃんとあります。レスポンスは意外にも遅い感じがなく、緩急をつけて追従してくるのでカドが立ちません。鳴り方としては、何度も書いているとおり、空間を包み込むような方向だと思います。
シャープネスは一切掛かっていないような鳴り方なのに、予想外に輪郭が追えます。これはレスポンス自体が遅くないからかもしれませんね。
中音域
ピアノは、少しフェルトピアノのような優しい質感になります。打鍵の芯をガツンと立てるのではなく、柔らかい布を一枚挟んだような穏やかさが乗る感じです。
オーケストラ系の楽曲では、弦楽器、管楽器全般が主張してきません。個々の楽器が前に出るのではなく、グループとして調和した優しい鳴り方をします。これがとてもリアルで、ホールで実際に反響した音を聴いているときの聞こえ方に近いような。
誇張が一切ないフラットな鳴り方、という表現も同時に正確かもしれません。とにかく耳馴染みが良いですね。
エレキギターについては、エッジ感に少し丸みが出てシャープさが失われます。ただ、リラックス志向のイヤホンとして考えれば納得できる質感でした。これを「失われている」と言うべきか、「本来の音」と言うべきか、そこは難しいところですけれど。
あと、これは後から気づいたことなのですが、中音域を担う楽器の距離感や定位は予想外に精度が高いように思います。全体的に音色が穏やかで、距離感をあまり意識させない鳴り方をするので、気づくのが遅れました。価格を考慮するとなかなかやってくれる感があります(笑)
ボーカル
透明感やエッジの立ち方といった、分かりやすい個性で押してくるボーカルではなく、もっと人間のリアルな温度感、体温のようなものを感じさせる質感です。厚みと温かみが一緒に乗ってくるのです。
位置としては楽器や伴奏より一歩前。近いレイヤーに置かれます。美しく演出されたボーカルというよりは、人が耳元で歌ったらこう聞こえるんだろうな、という生々しさがありましたね。この帯域は解像度の高さも特に強めに感じます。息遣いや口の動きといったディテールが豊かでした。
楽曲によっては、どこかASMR的な聞こえ方になることもあって…これはこれで良いですね…魅力的。
高音域
自然でリアリティのある音ですが、やや後ろに引っ込んでナチュラルに減衰していく感じですね。距離感は少し遠く、穏やかな鳴り方ですが違和感はありません。ただ、シンバルのパーン!というアタックはかなり穏やか目。
誤解のないように書いておくと、決して高音が出ていないわけではありません。ウィンドチャイムを鳴らせば、空気感を伴いながら、キラキラと星が降り注ぐような煌めきのある音がしっかり出ます。
シンバルの抜け感や存在感、金属音まわりのディテールにこだわると物足りなさはあるかもしれません。ただ、他の帯域でも書いたとおりリラックス志向のイヤホンとして考えると、「これでいい、むしろこれがいい」と思えるくらいの穏やかさに収まっていると思います。
音場・空間表現
空間そのものは標準的な広さで耳の外まで広く抜けていく感じはありませんが、高音の減衰していく消え際がそっと外に抜けていく程度の感じです。
しかし、オーケストラ系の楽曲を聞けば、限定的な空間の中でしっかりと前後左右を使って余韻を持たせながらレイヤーを構成している印象はあるので、値段を考えると頑張っているように思います。
音を誇張して左右に広げないナチュラルな出音なので、思いの外、定位の精度や音の距離感も良い気がします。(これに気づくのに時間がかかりましたが。)
解像度
ボーカルまわりの解像度が高めに感じられた以外は、おおむね価格相応の情報量です。細かい音を片っ端から拾い上げてくるタイプではありませんし、スタジオの空気やマイクの奥にある微細なノイズまで見せてくれるかというと、全然そこまでではありません。
ただ、この機種が上手いのは、その限られた情報量の使い方だと思います。取り出せる情報を無理に全部並べるのではなく、聴かせるべき音にきちんと質感を与えて、残りは音像の中に馴染ませてしまう。限定された解像度をフル活用した表現力、と言うとしっくりくる完成度。おかげで、なんだかアナログ的で誇張がなくてスッと耳に馴染むのです。
長所と短所
長所
- 温かく包容力のある低音
- 体温を感じさせる生々しいボーカル
- 誇張のない、耳馴染みの良い中域
- 価格から想像するより精度の高い定位
- 聴き疲れしない優しいアタック
短所
- スピード感は控えめ
- 全体の情報量は価格相応
- 音場の広がりは標準的



個人的にぶっ刺さりまくりのリラックス志向イヤホン。 まぁリラックス志向は私が勝手に言ってることですが(笑)
総評と感想
「Pula Audio ARC」は、スペックや解像度といった分かりやすい物差しで語ろうとすると、どうしても取りこぼしてしまうタイプのイヤホンかもしれませんね。
10mm PETのシングルダイナミックというシンプルな構成で、価格もエントリークラス。数字だけ見れば、正直そこまで期待するようなモデルには見えないと思います。ところが実際に耳に入れてみると、低重心で温かく、アタックが優しく、ボーカルには人の体温が乗っている。誇張して作り込んだ音ではなくて、フィルターを一枚かけて自然に温かい方向へ寄せたような、そういう音でした。
優しいのに輪郭がちゃんと追えるところも良かったり、そして音色が穏やかなせいで気づくのに時間がかかったのですが、定位や距離感の精度が思いのほか高いところも良かったです。
何より、限られた情報量を全部並べようとせず、聴かせるべき音にだけきちんと質感を与えて、残りは音像に馴染ませる。限られた情報の扱いや、この引き算の上手さが、本作の心地よさを支えているのだと思います。だから、性能で殴ってくるイヤホンではないのに、聴いていて全然物足りなくならないのですよ…!
もちろん、キレのあるビートでノリたい方や、シンバルの金属感を細かく追いたい方には物足りない部分もあります。そこは音作りの方向性がはっきりしているぶん、割り切りが必要でしょう。でも、ソファーに沈み込んで目を閉じて、ただ音楽に包まれていたい。そういう時間のためのイヤホンとしては、本当によく出来ていると思います。
最初にも言いましたが、数百を超えるイヤホンを聴いてきて、なんだか原点回帰したような懐かしさを感じてしまいました。エントリー機という枠で見るのではなく、「リラックス志向のイヤホン」というひとつのカテゴリの中に置いて評価したくなる完成度です。
もし今、性能競争に少し疲れているなら、このあたりで一度肩の力を抜いてみるのも良いんじゃないかなぁ…と思います。
私はこれ、めちゃくちゃ好きです(笑) (゚∀゚)LOVE!!
こんな人におすすめ
- 疲れずに長時間音楽を聴きたい方
- 温かみのある、体温を感じるボーカルが好きな方
- 誇張のないナチュラルな鳴り方を求めている方
- 就寝前やリラックスタイム用のイヤホンを探している方
- エントリー価格で「音の良し悪し」ではなく「音楽の楽しさ」を求める方



価格とか性能とか、そういう競争から一度外れて、肩の力を抜いて聴いてみて欲しいイヤホンですね。
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